阪神淡路大震災をきっかけに、本格的に日本での活動がスタート
地震や土砂災害はもちろん、山菜採りやハイキングでの行方不明者の捜索活動なども行う、災害救助犬。現場での役割は、生存者捜索(検索)活動になります。 従って、必ず警察や消防など公的機関の方と活動を共にして、生存者発見後にすみやかに連絡し、公的機関の方に救助していただくという連携プレーが求められます。 「どの活動現場においても私たちの気持ちは変わりませんが、やはり東日本大震災における捜索活動において現地の状況をみたときには、言葉では言い表せない気持ちになりました。同時に、災害救助犬の必要性をあらためて感じた現場でもありました」(日本救助犬協会) 日本においては、1995年の阪神淡路大震災のときに、災害救助犬が海外の救助犬たちと共に活動したのが現場での最初の活動だったそうです。 その後、地道な訓練に加えて行政機関や一般の方々への啓蒙活動を重ね、全国の災害救助犬団体で共通認識を持ち、スムーズに公的機関と連携できるよう、緊急災害救助犬隊(通称RD)という組織を立ち上げ、日々合同訓練や勉強会を行っています。
災害救助犬を目指したきっかけは?ワンちゃんに適性はあるの?
実際に災害救助犬のハンドラーとして今も訓練を重ねている方に、災害救助犬の活動を始めたきっかけを伺ってみました。 「私の動機は、家庭犬としての基本的なしつけをしたいというものでした。そこで災害救助犬の記事などを目にし、そういった使役にも基礎的なしつけが大切であるということを知りました。せっかく訓練をするのであれば、しつけの基本を学ぶとともに世の中のお役に立てれば、という気持ちで、活動をスタートしました。ほかの皆さんも、やはりしつけの方法として興味を持たれた方や、ボランティア意識の高い方などが多いように思います。また、しつけ教室に参加した際に、たまたま災害救助犬の訓練を目にして興味をもたれた方もいらっしゃいます」(オーナーさん) 災害救助犬を目指すための資格や、犬種や性格などでの適性はあるのですか? 「一般的に、狩猟犬や牧羊犬に属する犬たちに適性があることが多いのですが、それ以外の犬種の中にも生まれながらに素質を持った犬たちがいます。従って犬種などの規定はありません。ただ、あまりにも小さな犬種は災害現場を動き回る事に無理があると思います。 当協会では年に1度の認定試験を行い合格した犬たちが災害救助犬として日々訓練を重ね、災害が発生したときにはすぐに現場に向かえるよう、犬と人間が待機しております。なお、災害救助犬として活動できる年齢は10歳までとしています」(日本救助犬協会) 「犬それぞれの性格によっても、適性は、やはりあります。災害現場での活動を考えると、音響シャイ(大きな音などに興奮したり怖がってしまう)の子や、雑踏が苦手な子、足場が安定しないとおびえてしまう子などは、練習で徐々に克服していく必要があるかもしれません。もちろん訓練でそれらの環境に適応できるように改善していくことはある程度可能ではありますが、もって生まれた適性というのは、あるかと思います。また、災害現場ではハンドラーが犬を持ち上げて運ぶような場面もあり得ますので、大きすぎる犬種よりも、中型犬ぐらいのサイズが機動力としては向いているということもあります」(オーナーさん)
訓練を通しての苦労、そして喜びは?
どんな訓練を、どんな頻度で行っているのですか? 「基礎的な服従訓練や水平はしごや高所通過などの熟練科目のほか、捜索の基礎訓練の反復練習を行います。時には実際の現場を想定し、ビルなどの解体現場をお借りしての訓練会などを実施することもあります」(日本救助犬協会) 「私の場合は、平日は仕事をしているので月に2~3回、週末に特定の訓練場に行ってトレーニングをしています。 ただ、すべての基本になるのは呼び戻しやマテ、コイなどの基礎的な服従訓練です。災害現場は危険な状況も多く、愛犬を守るためにも、救助の方にご迷惑をかけないためにも、そうした基礎訓練が何より大切なんです。そういったことは、家の中で過ごしていても、いつも心がけている点です。また、日常的な散歩でも、わざと雑踏を歩いたり、工事現場の横を通ったり、ちょっと足場が安定しない場所を歩かせたり、雨で濡れた道に座らせたり、公園の遊戯をくぐらせたり、といった経験をさせたりしています」(オーナーさん) 訓練を通じて、愛犬に変化はありますか? また、飼い主として、ハンドラーとしての喜びは? 「災害現場はひとつとして同じところはありません。だからこそ、いろいろなケースを想定して日々トレーニングをしていきます。大切にしているのは、犬が心から訓練を楽しんでやってくれるように工夫すること。たとえば探索に失敗したら、簡単な課題を出して、最後は成功させることを心がけています。 犬も当然、経験のない状況に躊躇してしまったり、昨日できたことが今日はできない、なんていうこともありますが、そこを、仲間と話し合ってやり方を工夫してみたり、原因を探ったりしていく。そういった人間同士の交流も楽しみのひとつです。 なにより、そうした訓練を通じて、犬とのコミュニケーションが深まっていくのが一番の喜びなんです」(オーナーさん)
自分たちのペットに心がけたいこと
「いざというときに、少しでもお役に立てるように」と、災害救助犬の育成に関わる方たち。日々の地道な努力だけではなく、愛犬と一緒に成長できる喜びの大きさについても、深く感じることができました。 一方、「ペットを飼っている被災者」にもなり得る可能性を考えたときに、非日常で過酷な場面で愛犬を守るためにも、救助犬たちが身につけている基本のマテや呼び戻しなどのしつけやマナーを自分たちも考えるべきだという気づきもいただきました。 災害救助犬たちや、活動にかかわる方たちの今後の活躍を切にお祈りしています。
取材協力:NPO法人 日本救助犬協会