ワンピースにサンダルといったビーチスタイルの人たちがバス停へと列をなします。そう、これからが湘南エリアの夏のはじまり。ドライブをするクルマで国道134号線も大渋滞。そんなシーズンだからこそ、自由に移動がしやすい自転車を利用して、すいすいとサイクリングをしましょう。 自分の自転車をJR逗子駅か京急新逗子駅まで輪行してサイクリングもいいですが、夏場は車内が混み合う可能性もあり。その場合はJR鎌倉駅前で電動アシスト自転車をレンタルするのがおすすめです。鎌倉から逗子方面までは海沿いの国道134号線を走るのが道順もわかりやすいですが、途中トンネルがあるので、通行には注意しましょう。
逗子&葉山カルチャーを感じながら、海辺を走ろう
文人ゆかりの史跡やサザンの歌に登場したあの店も
▲逗子海岸にある太陽の季節の碑。 JR逗子駅から逗子海水浴場方面へ向かうまでは道が細いので、おしゃべりに夢中の歩行者やクルマに気をつけて走行しましょう。海水浴場を過ぎ、渚橋の交差点からは海沿いの県道203号線を走っていきます。 逗子は海水浴客で賑わう一方で、多くの文人が過ごしたことでも知られています。その名残として、石原慎太郎『太陽の季節』の文学碑や、国木田独歩の文学碑などがあります。また創業300年の歴史を誇る日本料理店「日影茶屋」は、サザンオールスターズの「鎌倉物語」の歌詞にも登場します。知っておくと「ここがあの作品の!」と見つける楽しみも増えるはず。
大人も子供に還る、ブルーノ・ムナーリの展覧会へ
今回のポタリングでメインとなるのは「神奈川県立近代美術館 葉山」。 すぐ近くには一色海岸と葉山御用邸と葉山しおさい公園があり、賑やかさとともに落ち着きのある文化的なエリアです。
▲神奈川県立近代美術館 葉山。奥に一色海水浴場が見えます。 この葉山館で2018年6月10日まで開催されているのが「ブルーノ・ムナーリ こどもの心をもちつづけるということ」という展覧会です。 ブルーノ・ムナーリは20世紀イタリアを代表するアーティストのひとり。その活動はイタリアの前衛芸術運動である未来派に始まり、雑誌の編集や挿絵といった紙媒体の制作、デザインプロダクトメーカーであるダネーゼでの実用品デザイン……と多種多様に及びます。 そんなムナーリの活動の中でも特筆したいのが「子どものための芸術」にまつわるもの。ひょっとすると、谷川俊太郎さんが翻訳した『きりのなかのサーカス』や、須賀敦子さんが翻訳をした『木をかこう』という本をご存知のかたもいるかもしれませんね。 ムナーリが子どもを対象にしたワークショップは、身近なものから創造力を広げる仕掛けがあり、それは大人にも子ども時代の自由に想像する気持ちを思い出させてくれるものでした。
▲《読めない本》試作(1955年、パルマ大学CSAC)。テキストはなく、紙の違いや穴などにより受け手がストーリーを想像していく。
▲《みたての石》(1985年、特定非営利活動法人市民の芸術活動推進委員会)。自然の石に入っていた白い模様を道に見立てたもの。 今回の展覧会は、1985年にムナーリが実演したワークショップを手がかりとして約320点の作品が展示され、そのうち約150点は日本初公開となります。 © Bruno Munari. All rights reserved to Maurizio Corraini srl. Courtesy by Alberto Munari
ちょっと寄り道して、豊かな自然を満喫!
▲青、緑、茶……。海岸ではいろんな色のシーグラスを探したくなります。 ムナーリの展覧会を観て、アーティスティックな気分になったならば、一色海岸や森戸海岸でビーチコーミングを。シーグラス(漂流物のガラスが波に洗われたもの)や貝殻を拾うことでインスピレーションがかき立てられるかもしれませんよ。 沖合の名島の鳥居が印象的な「森戸大明神(森戸神社)」は、源頼朝が創建した由緒正しき社。子授のご利益がありますが、実は家畜(ペット)の守護神としても知られています。
▲小高いところにある葉山あじさい公園は、海と山のビュースポット。 そのほかにも、6月中旬に見頃を迎える「葉山あじさい公園」には約3,000株のあじさいが咲き、「かながわ花の名所100選」にも選ばれています。時間があれば、標高140mの大峰山(三ヶ岡山)をプチトレッキングして、相模湾や丹沢山地、富士山を一望してみるのもいいですよ。
ローカル御用達の店で、ランチ&カフェタイム
The Gazebo Hayama
▲タルタルソースも自家製。フレンチフライはベルギー産のものを使用。
▲県道に面した開放的なテラス席。地元の人がふらっと立ち寄りたくなるのも納得。 フィッシュ&チップスが名物のサイクリストフレンドリーなお店。海の町・葉山で獲れる地魚をメインとした旬の魚や厳選して仕入れた素材は、シンプルに揚げたてを提供することで十分なごちそうになる。そういう豊かな贅沢を知っているからこそ、地元のひとたちからも支持されています。森戸海岸で犬の散歩をさせた帰りに立ち寄っていくロコたちの「ガゼボ(色々なひとが集まってくる東屋の意味)」なのです。 サイクルラックもあるので駐輪も安心。店内で揚げたてを頬張って食べてくださいね http://www.gazebo-hayama.com/
▲バイクラックは自転車乗りのお客様が自作されたものだとか。
umibe cafe
▲コージーな店内。海水浴場や駅前の喧騒から離れて静かな時間が流れる。
▲丁寧にドリップされたコーヒーとカタラーナ(イタリア式クレームブリュレ) 元編集者だった店主の大澤さんが開いたカフェ。店内にある大澤さんの蔵書を自由に読めるというのも、人の本棚をのぞかせてもらっているような楽しみがあります。 丁寧にドリップするコーヒーは自家焙煎ではなく、あえて鎌倉「ヴィヴモンディモンシュ」、徳島「アアルトコーヒー」、島根「カフェロッソ」といった名店の豆を月替りで使うというスタイルもユニーク。休日には湘南の魚を使ったランチプレートもいただけます。 https://www.facebook.com/umibecafe/
▲編集者の本棚を見る。そこにどんなアイデアの源があるのかとわくわくします
▲エントランスには自転車用のフックがあり、サイクリストフレンドリー。店主も40年来の自転車乗りだそう。
おわりに
「いつもは海水浴で来ていた」 「鎌倉へは行くけど、電車の通っていない葉山は少し遠い気がしていた」ーー。 そんなかたもいるかと思いますが、普段とは違う目的、移動手段を使うことで、町の知らなかった魅力に気付くことができると思います。このポタリングでの距離で手応えを感じたならば、次は三浦半島の先端の三崎港まで距離を延ばしてみるのもいいかもしれません。 自転車で自由にまわるプチトリップ。ぜひ初夏のアクティビティに加えてくださいね。