レース観戦の醍醐味

『ツール・ド・フランス』の開催期間中は残業を回避。速攻で帰宅してTVで観戦。放送が終わるのがだいたい毎晩深夜1時くらいなので、寝不足の日々が3週間続きます。選手だけでなく、観る者にとっても過酷?な3週間となります。

ところで、自転車レースを知らない友人と話すと、決まって「どこが面白いの?」といった反応が返ってきます。一緒に観戦できたりしたら、盛り上がるのですが・・・。
よし!ここは私の独断と偏見で自転車レース観戦の楽しさとその方法について語りましょう。

ここで言う「自転車レース」とは、主に公道などで行われる「サイクルロードレース」と呼ばれるものです。競輪場のようなところで行われる「トラック」と呼ばれる競技もあるのですが、さらにマニアックな世界なのでまたの機会に。

ロードレースは、100人以上の選手が一斉にスタートし、短いものでは数十km、長いものだと100kmとか200km以上先のゴールに最初にゴールした選手が勝者となります。

勝者はたった一人なのですが、実はロードレースはチームスポーツなのです。つまり、一人の「エース」と呼ばれる選手を勝たせるために、「アシスト」と呼ばれる他のチームメンバー全員がエースを文字どおりアシストしながら走るのです。

風がレースをつくる?

一見、個人競技のような自転車レース、何故このようなチームプレイが必要なのかと言いますと、それは、まさに「風」のなせる業(わざ)なのです。風=空気抵抗 です。「風が自転車レースをつくっている。」とよくいわれます。
実は、自転車で40km以上のスピードで走る時の空気抵抗は相当なもので、独りで風を受けながらスタートからゴールまで走り切って勝利することは容易なことではありません。先頭で風を受けて走るのと他の選手の後ろを走るのとでは、一説では空気抵抗が30%も軽減されるとも言われています。要するに人の後を走ると楽ができるのです。選手達は一団(特にレース序盤は100人以上の集団)となって、先頭を交代して負荷を分担しながら進んでいきます。

そうなると、誰もが‘キツい’先頭には出たくない。でも誰かが先頭に立たないとレースが成立しないのでは?といった疑問が生まれます。先頭を走る選手はルールで決まっているのでしょうか?

実は、ルールはないのです。言ってみれば、集団の中の‘暗黙の了解’で先頭交代が行われます。レースで勝ちたいチーム、レースを自分たちの思い通りにコントロールしたいチームは積極的に先頭を受け持つことになります。
そうすると、ゴール直前まで先頭に出ず、集団の後方で体力を温存しておいて、最後だけ先頭に出て、そのままゴールしてしまうといった姑息な作戦を思いつくのですが・・・。それも暗黙の了解で‘御法度’になっています。それをやってしまうと、たとえレースに勝利したとしても確実に選手やチームの評判を地に落とすことになるので行われません。正々堂々と風を受けて走った選手・チームだけが勝利に値する。そんな人間臭さが自転車レースの魅力の一つでもあります。

美しき自己犠牲(サクリファイス)

そんな中でも、先頭交代のお役目を免除されるのが、各チームのエースという存在です。風を受けて走る仕事はアシストに任せて、エースは最後のエース同士の戦いに備えて体力を温存します。
アシストの仕事はエースのために風を受けるだけでなく、エースの体力の温存につながることは全てやります。長時間のレースの間、選手たちは自転車に乗りながら、ドリンクや補給食を摂ります。アシストが集団の後方で選手たちを追走するサポートカーまで下がって、車からドリンクボトルや補給食を受け取って、また再びエースのところまで戻ってエースに手渡すなんてことも仕事の一つです。エースのタイヤがパンクしたときには、アシストが自分の自転車の車輪ごとエースに差し出したりもします。当然、車輪を失ったアシストは実質今日のレースは終了です。それらのアシスト達の献身的な仕事が観ている者の胸を打つこともあります。

では、なぜ、アシスト達はそんなにまでして自己犠牲を払って走るの?自分がレースに勝利できることはないにもかかわらず・・・
当然、プロ選手なので、それでお金をもらっているということもありますが、アシストはアシストでその献身的な仕事をチーム関係者だけでなく、マスコミや一般のファンから評価され、リスペクトされているのです。
サッカーも日本で現在ほどメジャースポーツではなかった時代には、点を獲るストライカーだけが注目されていましたが、世間でのサッカーへの認識が深まるにつれ、ミッドフィールダーが評価されるようになったり、ディフェンダーに憧れる子供たちがいたりもします。それと同じです。自分の仕事が評価され、エースが勝利したときには、チームとして喜びを分かち合えるからこそたいへんな仕事もこなせるのです。

アシストたちの献身的な仕事ぶりに関しては、近藤史恵さん著の小説『サクリファイス』(新潮文庫)で、選手たちの心理描写なども含めとてもうまく表現されており、自転車レースをより深く知るのにもおススメです。

知的ゲーム

自転車選手には、‘脚質’と呼ばれる得手不得手があります。体重が軽くて登りが得意な選手、ゴール直前の短い時間で爆発的なスピードを出せる選手、平坦路で長時間速いスピードを維持できる選手など。エースと呼ばれる選手は、どれも平均以上の能力を持っていたりします。単なる力勝負ではなく、コースレイアウトやレース展開に応じて、選手をチェスの駒のように使って戦うのが自転車レースの醍醐味でもあります。事前にコースレイアウトを見て、レースの展開を推理しながら観るのも楽しいですね。

いよいよレース観戦デビュー

その自転車レースですが、どうやったら観戦できるの?

冒頭にも書きましたが、自転車レースの本場であるヨーロッパのレースは、「ツール・ド・フランス」をはじめTVで観ることができます。有料にはなりますが、J SPORTSなどで観ることができます。
あと、「ツール」などの大きなレースはスポーツバーで観られたりもします。仲間とお酒を飲みながら、ワイワイ観るのもいいですね。
自転車レースは、サッカーや野球などと違い、決定的瞬間を見逃さないように常に集中して観ている必要もありませんので、のんびり食事やおしゃべりしながら観るにはちょうどよいですね。

あと、いちばんのおススメは、やはり実際にレース会場に足を運んで、生で選手たちの走りを観ることです。自転車レースは主に公道を使って行われるため、他の競技場内で行われるスポーツと違い、想像以上に選手たちとの距離が近いです。選手たちは一般の人が想像する自転車のスピード域をはるかに超えたスピードで目の前を走り抜けます。集団で走り抜けた選手たちの後からは、まさに選手たちが押しのけた空気が巨大な塊となって押し寄せてきます。そのスピード感、迫力を肌で感じられるのが、ライブ観戦の醍醐味でしょう。
また、レースの前後など、選手にサインやセルフィーをお願いするチャンスもたくさんありますのでレース会場で積極的に声を掛けてみてください。
今年の夏は、自転車レース観戦デビューしちゃいましょう!
さすがに、ヨーロッパまで行くことのできる人は少ないかと思いますので、これから日本で開催される主なレースを紹介しておきます。

ライター紹介

森岡 正宏(もりおか まさひろ)

森岡 正宏(もりおか まさひろ)

au損害保険株式会社に勤務。
スポーツとして自転車に乗り始めてから四半世紀以上。
40代後半となった現在も国内外の自転車、トライアスロンレースに出場。

★ライターから一言★
多くの方に、自転車の魅力を知ってもらいたい!自転車好きの私が、H&LEを通じてコラムに載せていきます♪